移住者インタビュー

特別編3

「とかいなか」白河の魅力~「おもてなし」と「ほったらかし」のええ塩梅~

コモンズ・デザイナー 陸奥賢

白河と東京

 みなさん、こんにちは。陸奥賢と申します。「観光」を切り口に、いろいろと社会実験を繰り返しているコモンズ・デザイナーです。福島県立博物館のライフネットワークミュージアムの仕事などで白河には何度も足を運んだことがあります。

 2020年のコロナ禍以降、私が住む大阪でもそうですが、東京・関東圏でもリモートワークが増加したとよく聞きます。すべてオンラインの完全フルリモートの会社、労働形態も珍しくないとか。もはやそうなると、わざわざ家賃の高い東京や大都市圏に住んでいる必要はないでしょう。

 白河は北関東・栃木県の那須の隣で、東北の玄関口(白河の関)ですが、東京・上野駅から東北新幹線を使えば新白河駅まで早ければ70分で到着します。さすがに大阪から白河までは遠いですが、東京・関東圏から白河は意外なほど近い距離にあります。聞くところによると、東北新幹線の開通で新白河駅ができてから、白河に在住して東京の会社に「通勤」する方もいるとか。

 今までは地方に移住となると、ひとまず仕事を探すということが絶対条件、必須条件でした。しかしリモートワークの時代には仕事は東京や大都市圏で充分に賄えます。なので地方移住の決め手は仕事の要件、条件ではなく、もっと生活者のインフラが重要になってくるようです。

新白河駅

都会人が求める『距離感』

 快適で安価な不動産物件があるか?新鮮な野菜や肉、魚が買えるスーパーマーケットがあるか?保育・子育て・教育の公的機関の充実、支援制度はどうか?週末に家族で楽しめる、遊べるレジャー、リラクゼーションの施設や空間があるか?いざという時のための病院、医療機関のインフラや防災体制は大丈夫か?そういったことが決め手になってきます。そのあたりのことは白河市移住・定住ポータルサイト「おかえり、白河」をご覧になっていただくと一目瞭然で情報がまとめられています。

 しかし、そうした生活面のインフラの重要性はもちろんのことですが、なによりも都会人には地方の風土や人との関わり方の『距離感』が最も大事になってくると僕は考えています。僕自身が大阪生まれ大阪育ちで生まれてこの方、大阪以外の都市に住んだことがないという都会的な人間なので、都会人の感覚はそれなりにわかっているつもりです。

 以下は都会人のわがままなのですが、都会人としては、地方に行った際に、地方の人から、なにやら興味関心を持たれて遠慮がなく馴れ馴れしく踏み込んでこられるのは、まず苦手です。しかし、だからといって『よそ者』に対して排外的で冷淡なのもいろいろと困るわけです。結局、地方ではあるが、都会的なものへのセンス、アンテナがあるというのが非常に重要な移住の決め手になってきます。

白河の風土

 そして、そういうセンスやアンテナが、ちゃんと備わっているのが白河ではないか?と実は前々から思っています。これは白河という土地の場所や歴史に由来します。まず白河は歴史的には奥州街道の宿場町であり、東北文化圏と関東文化圏の結節点のようなところにあります。一番最初の東北圏であり、一番最後の関東圏でもあるわけです。

白河の関跡

 また宿場町というのは旅人を常に受け連れて発展してきたまちです。基本的に他者に開かれています。つまり、おもてなしの歓待ができると同時に、ちょっとドライな部分もあります。旅人や他者に慣れているし、一応、興味関心はあるが、それが過度ではない。「ほったらかし」もしてくれる。この「おもてなし」と「ほったらかし」という微妙なさじ加減が、本当に難しいのです。

 これが日本全国各地にある農村部では、そういう他者との交流を円滑に成り立たせる文化的な背景がなかなか育ちません。農村部はやはり宿場町や商業都市などに比べれば、どうしても閉鎖的な集落になってしまいます。そして農村の内部にいる人との交流は、やたらと過密で過重です。人間関係が近すぎて、コミュニティが濃厚すぎて、都会人は、その距離感に戸惑ってしまうわけです。もちろん「そういう濃厚な人間関係がいい!」という人間もいるでしょうが、都会人では稀ではないでしょうか。

「おもてなし」と「ほったらかし」のええ塩梅

 これは余談ですが、いま都会の若者が地方で活動する地域おこし協力隊の制度がありますが、この若者たちと地方の方が、ちょっとした言動・行動の行き違いなどでトラブル(?)になっていたりしています。これは結局、都会人と地方人の「他者との関わり方」「人との距離感」の相違によるコミュニケーション機能不全が問題の一因だろうと僕は思っています。

 白河は、おもてなしをちゃんとしてくれます。でも、ちゃんとほったらかしもしてくれるんです。その雰囲気は、例えば白河のコミュニティカフェ「エマノン」に行けばよくわかります。ここは白河の高校生たちや他都市から来た若者たちが、常日頃から自由に行き来してますが、エマノンのスタッフたちとお客さんたちは、なかなか微妙な人間関係の距離感で成り立っています。近すぎず。遠すぎず。あつくもなく、つめたくもなく。

エマノンで若者と交流

 つまり、おもてなしをするし、ほったらかしもする。これが良いのです。これがないと、僕みたいなシティボーイ(僕はそれにちょっとコミュ障も入っているかも知れませんが…)は困るのです。

 ひとりになりたい時もある。そのくせ、さみしい時には、適度に相手してくれる。それができるか?できないか?都会人の移住者を増やしたい時は、こういう「塩梅」(あんばい)が非常に重要なファクターとなってくると僕は思っています。

 生活の条件とかインフラとか、そういったハードウェアは、ある程度は資本などで用意できるでしょう。でも「人との距離感」といったヒューマンウェアは、これは一朝一夕には育ちません。おいそれと用意できません。簡単に作り上げることができない。こういうヒューマンウェアは教育でも難しいのです。風土や街場。歴史。文化。言葉。そういうものに培われてきた教養というものです。

 おもてなしとほったらかしのええ塩梅。それが白河にはあります。東京、関東圏、都市圏の移住者を増やしていく上でこれは非常に重要なアドバンテージではないかと僕は思ってます。都会的なセンスを有した田舎で「とかいなか」という言葉があるそうですが、まさしく白河は「とかいなか」のまちだろうと思います。お試し住宅の「まちなかベース」を利用したり、エマノンに立ち寄ったりして、その魅力をぜひとも体験してみてください。

■陸奥賢
観光家/コモンズ・デザイナー/社会実験者。1978年大阪生まれ・堺育ち。中卒。2007年に堺のコミュニティ・ツーリズム企画で地域活性化ビジネスプランSAKAI賞受賞(主催・堺商工会議所)。2008年~2013年まで大阪あそ歩(2012年に観光庁長官表彰受賞)プロデューサー。大阪七墓巡り復活プロジェクト、まわしよみ新聞(読売教育賞最優秀賞受賞)、直観讀みブックマーカー、当事者研究スゴロク、歌垣風呂(京都文化ベンチャーコンペティション企業賞受賞)、死生観光トランプなどを手掛ける。大阪まち歩き大学学長。著書に『まわしよみ新聞をつくろう!』(創元社)。2023年からは「いわき時空散走」プロデューサーとして福島県いわき市で活動している。

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